東京高等裁判所 昭和25年(う)5299号 判決
本件控訴の趣意は末尾に添付した弁護人の控訴趣意書と題する書面記載のとおりであつて、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
記録を調査すると、原判決が証拠により認定した事実は、被告人は昭和二十五年九月二十六日、東京駅京浜線ホームで静岡駅発行の荷受人永田名義の手荷物切符一通を拾得したのを奇貨とし、これを不正に行使して手荷物を騙取しようと企て、翌二十七日午前七時頃手荷物の着駅なる千葉県野田市所在東武鉄道野田駅前公衆電話により、同駅係員に対し、荷受人本人なるが如き言辞を弄して手荷物の有無をたしかめた上、直ちに同駅前露店商増島新作方に至り、その長男増島一夫に前記手荷物切符を交付して手荷物を受領して来る様依頼し、情を知らない同人をして、同日午前七時過ぎ頃同駅において該手荷物切符を係員に呈示させ、恰も荷受人が受領するものの如く誤信せしめ、荷受人永田名義の手荷物一個を騙取しようとしたが、既に係員にその偽計を察知され、且つ偶々真正の荷受人が手荷物を受領した後であつたため、その目的を遂げなかつたものであるというのであり、又原審第三回公判調書中の証人宇賀丈吉の供述記載によれば、鉄道便により手荷物を託送した場合に、手荷物切符の所持人が着駅の係員にこれを提出して手荷物の引渡を請求すれば特別の事情がない限り、直ちに手荷物の引渡を受けることができることになつていることを認めることができる。
然らば被告人が拾得した前記手荷物切符を利用し、野田駅係員を欺罔して前記手荷物を騙取しようとした行為は、本来その結果の実現が絶対に可能性がなかつたものではなく、たゞ本件の場合において、偶々真正の荷受人が被告人より先にその手荷物を受領していたため、被告人の偽計が看破され騙取することができなかつたに過ぎない、即ち被告人の意図し実行した詐欺行為は、通常の場合その結果の実現が不可能のものではなく、且つ所謂具体的危険性のあるものではあつたが、前記の特殊事情により、偶々不能となつたのであるから、被告人の本件行為は、所謂不能犯ではなく、詐欺の障礙未遂に該当するものである。さればこれと同一の見解に基く原判決は正当であつて、所論の如く事実を誤認したものではなく又法令の適用を誤つたものでもない。故に論旨は理由がない。